雨雲レーダーはサイトによって違う?

 地図上に表示された青や黄、赤色の表示。どこで雨が降っているかを示す雨雲レーダーは、いまや日常生活に欠かせない。だが、実際の降水現象を正確に反映できていない可能性があることをご存じだろうか。背景には3次元的な観測の難しさがある。

 

 気象庁のHPで閲覧できる「高解像度降水ナウキャスト」は、気象レーダーによる観測と、アメダスなど地上にある雨量計の観測を組み合わせる。レーダー観測は広範囲をカバーできる一方で正確性に課題が残るので、雨量計で実際に観測された数値で補正することで、実態に近づけている。アメダスのほか、高層ゾンデ観測、ウィンドプロファイラのデーターも活用している。

 

  これほど手厚い補正をかけても、雨雲の『完全再現』の念願はかなっていない。例えば、同じ時刻の「高解像度降水ナウキャスト」と国土交通省の「XRAIN」を比較すると、降水を示すエコーの範囲がずいぶん異なる(下図)。SNSでは、「高解像度降水ナウキャスト」では降っていないことになっているが、濡れたくなければ「XRAIN」を見るようすすめる投稿もあった。なぜ、このような差があるのだろうか。

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データー処理の仕方に違い

 筆者ははじめ、電波の種類が異なるためだと考えた。国内で主に使われているレーダー雨量計は、観測半径が広いCバンドレーダーと、観測半径は狭いが細かい表現ができるXバンドMPレーダーの2種類がある。気象庁はCバンドレーダーを全国20か所、国土交通省は26か所のCバンドレーダーと39か所のXバンドMPレーダーを整備している(平成30年3月現在)。XバンドMPレーダーが都市部に集中しているのは、夏場に頻発するようになったゲリラ雷雨の監視に威力を発揮するためだ。

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 このように、国土交通省のほうがレーダー雨量計の数も種類も多い。だが、調べてみると、気象庁の「高解像度降水ナウキャスト」は平成26年の提供開始時から国土交通省XバンドMPレーダーを活用していた。さらに、平成31年3月からは同省のCバンドレーダーの利用も開始し、地図上のすべてのレーダー雨量計を活用していることになる。雨雲を監視する『目』が増えた分、「XRAIN」よりもとりこぼしが少なくなるような気がするが……。実際にはそうなっていない。深まる疑問を天気相談所にぶつけてみた。

 

 「気象庁は地上の雨量計などで補正を行っているが、国交省は各種レーダーエコーを合成したものをそのまま使っているはずだ。データー処理の方針の違いが、降水域の差として表れているのだろう」(天気相談所担当者)

 

 「降水ナウキャスト」では前述のアメダスなどを使った補正によって、弱い信号が『足切り』されることがある一方、「XRAIN」は『足切り』されずに画面上に反映されるということか。気象庁の手厚い補正は、災害につながるおそれがある高強度の降水を把握するのに効果を発揮する一方、日常生活で出会うことが多い、傘をさすか微妙なほどの強さの降水エコーがそぎ落とされてしまう可能性があるのかもしれない。

 

山間部では雨雲補足に課題

 気象庁国土交通省のレーダーは全国にまんべんなく整備されている。Cバンドレーダーの半径は120km、Xバンドレーダーの半径は60km。レーダーから遠ざかるほど精度が悪くなるとはいえ、一見すると空白地帯はなさそうだ。だが、途中に高い山があると電波は遮られ、山の向こうの雨雲を観測することはできない。日本の国土は山がちなので、レーダーの設置場所によっては思わぬ死角が生じる場合も考えられる。山梨県を例にとってみよう。

 

 山梨県に近い気象庁の気象レーダーは、東京(柏)、長野(霧ヶ峰車山)、静岡(牧之原台地)の3か所。しかし、いずれもレーダーの設置場所と甲府盆地の間には高い山がそびえているので、山より低い雲は映らない。国土交通省のレーダーを利用する以前は、雨雲レーダーに映らない降水現象がしばしば発生していたのではないかと推測される。

 

 国土交通省のCバンドレーダー、XバンドMPレーダーはどうだろう。観測半径が60kmと短いXバンドMPレーダーは、新横浜、富士宮、沼津にあるがいずれも山梨全体をカバーしない上、山にはばまれる。唯一、三つ峠山頂にあるCバンドレーダーが甲府盆地全体を見渡せて、山梨県の雨雲観測の要となっていそうだ。では、三ツ峠レーダーの死角はないのだろうか。

 

 三ツ峠山に登って周囲を見渡すと、なるほど甲府盆地が一望できる。三ツ峠山は地上波テレビの中継地点にもなっているほど立地が良く、レーダー雨量計を配置するにはうってつけの場所だ。だが、くまなく探すと北杜市の一部は茅ヶ岳の山陰なので見ることができない。北杜市は、北方にある霧ヶ峰レーダーからも見ても八ヶ岳の山陰だ。

 

 天気相談所の担当者は「レーダ観測では、低い雨雲は映らない場合がある。気象レーダーの性質として、エコーがなくても降水現象が起きることがあることを知っておいてほしい。また、気象レーダーはなるべく死角がないように設置されているが、山がちな地域ではレーダーの観測が届かない場所がある可能性も否定できない」と話す。レーダーの死角を減らすには、より高い山の山頂にレーダーを設置すると有効だが、整備の難しさや環境保護を考えると解決困難な課題も多いのだろうと思われる。しかし、20数年前までは、現在では思いもよらない好立地にレーダーが整備されていた。日本一の山、富士山だ。

 

歴代レーダー最高地点は富士山頂

  1999年までは富士山の山頂で気象レーダーが稼働していた。スラッとした独立峰は天然の観測タワーと称されるほど気象観測の条件が良いことが知られている。世界遺産にもなった今、富士山頂にレーダーを建設するなど夢物語にも感じるが、かつて白いレーダードームは富士山頂の代表的な景観だったという。

 

 その富士山レーダーの建設を指揮した責任者は山岳小説家の新田次郎(藤原寛人)だと知ったときには驚いた。気象庁職員だった新田は、富士山レーダーの完成を見た翌年、文筆業に専念するため気象庁を退官している。新田が残した傑作は多いが、富士山レーダーはその中に輝くまさに金字塔ではないか。時代は下って富士山レーダーも霧ヶ峰と牧之原の気象レーダーが完成するとお役御免となったが、新田の時代から続くレーダー観測の地道な改良のおかげで現在の便利な雨雲レーダーがある。